島根原発30㎞圏自治体における事前了解権を巡る状況についての報告
- upzkenkyu
- 2022年1月30日
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当研究会では、中国電力島根原発の周辺市町村が事前了解権を含む安全協定の締結を求める取組を行っている情報をキャッチし、詳しいことを調査するため昨年末の12月23・24の両日、視察団を派遣し、島根県の出雲市、雲南市を訪れました。
視察団は、関三郎会長、牧田正樹副会長、関貴志事務局長の3人です。
以下、その概要を報告します。
★島根原発の再稼働に関する状況
まず、島根原発とその再稼働の動きを取り巻く状況について説明します。
島根原子力発電所は日本で5番目、電力会社が設置する発電所としては3番目の原子力発電所として島根県鹿島町に建設されました。1号機は,国産第1号として1974年3月に営業運転を開始し,2015年4月30日をもって営業運転を終了,2017年7月に廃止措置作業に着手しています。また、2号機は1989年2月に営業運転を開始しました。現在定期点検中の2号機は、2021年9月に新規制基準に合格しています。2005年に所在地の鹿島町が松江市と合併したため、立地自治体は島根県と松江市です。このため、日本で初の都道府県庁所在地に立地する原子力発電所となりました。電力事業者は中国電力(株)です。
PAZ・UPZを合わせた人口は約46万人、島根県の7割近い県民が住んでいます。
30㎞圏内には、島根県の出雲市、雲南市、安来市、鳥取県の米子市、境港市があり、これらの自治体は鳥取県も含めて再稼働の事前了解権を中国電力に求めています。
また、2号機の原発再稼働に際して、住民投票を求める直接請求署名活動が各市の市民団体の手で行われており、そのうち松江市では年明けの1月7日、市選管に提出しました。そのほか、出雲市では1月から署名運動が開始される予定であるほか、鳥取県の米子市や境港市は、集めた署名をすでに選挙管理委員会に提出しています。

★出雲市
12月23日早朝県内各地を出発した視察団は、羽田空港で落ち合って空路山陰地方へ向かいました。午後2時、最初に訪れたのは、出雲市役所です。
説明に当たってくれたのは、出雲市防災安全部長、原子力防災室長のお二入です。
以下、調査内容を記します。
合併した旧平田市が原発10㎞圏だったこともあり、出雲市は福島原発事故以前から中電に対して安全協定(連絡通報協定)を求めていた。
福島原発事故とUPZの設定を受けて、島根県の3市で計画等に対する事前了解、立ち入り調査・適切な措置の要求を含む安全協定の締結を中電に要請(2011年11月18日)。また、全国市長会を通じて、立地自治体と同じ権利を持つことの法制化を要望している。
事前了解権を求める理由
リスクの大小はあるが、周辺自治体もリスクを負うことに変わりはない。事前了解権によってリスクのある原発に密接に関与できる。
市議会は全会一致で事前了解権の獲得を支持している。
議会での議員の発言や各派代表者会議での発言を通して、市としてそのように認識している。 ・市としても、全議員がそのように考えることは当然と受け止めている。むしろ、反対するような事案ではないとのこと。
・議会も行政も、事前了解権と再稼働の是非をしっかりと区分して考えている印象を受けた。
・再稼働に賛成であっても、「原発にしっかり関わり、リスクを低減することが必要」と考えているとのこと。
2013年10月29日、県と各市との間で、「県が原発に関する重要な判断や回答をするに当たって、3市の考えをよく理解し、誠意をもって対応すること」等の覚書を締結した。覚書に基づいて開かれる「知事・3市長会議」は公開している。
現在の到達点(2021年の前進事項)
・核燃料輸送の事前連絡(立地自治体と同じ)
・適切な措置の要求(中国電力に直接の要求はできないが、措置要求権を有する県に対して要求できる)
中国電力が事前了解権を拒否する理由(市の考え)
・電力業界が全国への波及を恐れているのではないかと考えている。
・再稼働のハードルが上がることを恐れているのではないかと考えている。
松江市は、立地自治体と周辺自治体で権限に差があってしかるべきと考えている。島根県は中立とのこと。
出雲市による再稼働の判断
・出雲市の設置する組織:専門家による原子力安全顧問会議、市民参加による原発環境安全対策協議会(公募市民団体、商工団体、福祉団体、学校関係者など)。
・上記2組織の意見と議会及び住民説明会の意見を参考にして、市長が可否を判断する。
・この手順は明らかにされていることから、判断に際しての混乱は生じにくいと思われる。
★雲南市
翌12月24日9:30に訪れたのは雲南市です。
こちらでは、副市長、防災部長、原子力防災対策室長、それに同市の市議会議員の方1名が説明に当たってくれました。
以下、調査内容を記します。
事前了解権を求める理由
福島原発事故により事故の影響が広域化することが分かったため。
市議会は全会一致で事前了解権の獲得を支持。
・再稼動に対する事前了解権を求める意見書を、全会一致で可決している。
・説明に参加した市議より「30㎞圏自治体の議員として事前了解権を求めることは当然で、事前了解権の要・不要の議論はなかった。再稼働の是非については意見が割れるだろう」との発言があった。
原発に関する県からの意見照会
この照会については、県への回答案を市長が議会に議案として提出し、諮問することになっている。(雲南市独特のプロセスのようである。)
県を通じての措置要求
県が措置の必要を認めた場合に3市の意見を聴取する仕組みであり、市から求めることはできない。
中国電力が事前了解権を拒否する理由
「立地自治体とは原発建設時の開発行為から関わっていることから、歩んできた歴史が周辺自治体とは異なるため」との回答が中電よりあった。
雲南市による再稼働の判断
2014年頃から出雲市と同様の組織(専門家会議・市民協議会)があり、手順についても同様である。島根県ではこの方式がスタンダードのようであった。
県や事業者との協議を通して、県からの原子力防災安全等対策交付金が1500万から2500万円に増額された。(出雲市は3000万→8000万円)
首長が連携して動いているためか、3市の議員による連携はとられていない。
★新潟県における状況との違いについての考察と感想
視察した結果についての考察と感想を若干述べます。
30㎞自治体の取り組みや認識は、新潟よりもレベルが高いと感じました。
事前了解権の獲得には至っていませんが、各自治体が一致して取り組むことで前進した項目もあり、見習うべき点がありました。
県の取り組みの違い新潟県は「原子力発電所事故に関する検証総括委員会」と3つの検証委員会を立ち上げており、全国的にもしっかりした取組を行っている(出雲市、雲南市は島根県でも新潟県レベルの取組が必要と考えている)ことから、新潟県の30㎞圏自治体は県に依存する考えが強く、自らの事前了解権については不必要と考えるか、獲得に消極的なのかもしれないと感じました。
島根県の地元メディアが特集記事などで事前了解権を大きく扱っていることで、住民や政治家の意識が高まっていると思われます。このことから、UPZ議員研究会もメディアや住民に対しての更なる啓発が必要であると感じました。
島根県では再稼働に対する可否の判断と事前了解権の必要性は区別して考えられていますが、新潟県では事前了解権=再稼働反対と捉える傾向があると感じています。
上記5の要因として、島根県よりも新潟県のほうが電力事業者に対する不信感が大きいことがあるのではないでしょうか。また、地域に対する電力事業者のアプローチや関わり方が異なっているのかもしれません。
原発周辺自治体への事前了解権については、電力業界全体で対応を協議していると思われますが、要求している自治体は全国的な連携が弱いように思えます。そこで、全国的な組織化や連携が必要ではないかと感じています。
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